森のようちえんについて
森のようちえんとは
未就学の子どもを対象とした野外保育は、北欧諸国で始まったとされています。日本では、2005年より野外保育に携わる立場とこれから団体を立ち上げたい有志が意見交換を行うフォーラムが恒例開催されるようになりました。県や市町村からの助成を受ける団体が増えつつあり、活動の広がりが期待されている保育スタイルです。
1950年代に北欧諸国で始まった「森のようちえん」という活動
ドイツ・デンマークを中心として、森のようちえんは現在世界各国で知られるようになりました。その発祥は1950年代半ば。デンマークのひとりの母親が、自分の子と近隣の子を預かり森で遊び過ごしたことが始まりと言われています。その後ドイツなど北欧諸国に広まり、現在では北米・アジア地域を含め世界に500以上の団体があります。
未就学児を連れての野外保育は、団体ごとにその活動内容が大きく異なります。共通しているのは、保護者の思いや声から発足しているところ。大自然の新鮮な空気を吸い、体をダイナミックに動かしながら大らかに育ってほしい。そんな願いは各国共通です。
世界中で国や地域から認可を受ける森のようちえんが増加
国によって教育や行政の制度は異なります。森のようちえんも、認可幼稚園・保育園として国や地域から助成金を受け活動する団体もあれば、自主サークルやお散歩会の形態もあります。
北欧では、多くの森のようちえんと一般的な幼・保園が同等に扱われています。デンマークでは2004年より、森のようちえん各園が国の保育カリキュラムに添った運営・方策を文書で提出することを義務としました。保育士への報酬や運営経費に公的資金が多く充てられ、国内での認知度や信頼度が年々上がっていると分かります。
自主的な活動から始まった日本版森のようちえん
日本で森のようちえんという言葉が広まったきっかけは、1995年石亀泰郎氏が出版した著書「さあ森のようちえんへ」と言われています。しかし実際には、95年以前から各地に子どもを対象とした青空保育やお散歩会は数多くありました。自然豊かな環境で子育てをしたいというニーズはもともと日本国内に根付いており、野外保育を専門に行う団体や主催者が望まれていたと言えます。
現在の「森のようちえん」は、「森」という名称ではありますが活動場所は海や川、野山里山、畑、都市公園など多岐に渡ります。また「ようちえん」とはいえ一般的な幼保園の形式にとらわれず、自主保育、育児サークル、学童保育、子育てサロン形式などが含まれます。対象年齢は2歳頃~7歳前後と広く、各団体がオリジナルの発想でこどもと自然体験をつなぐ保育を模索していることが分かります。
活動内容の共通点は、“園児が暮らす地域での保育”です。自然体験をするために毎回遠くまで出向くという園や団体はほとんどありません。雪深い地域、暑い地域など特有の風土や行事が保育場面で自然に取り入れられ、こども達にとっては生まれ育った地域への愛着が根付く助けとなることも魅力の1つです。
一般的な幼稚園や保育園と目指すこども像は同じ
森のようちえんは、一般的な幼稚園や保育園(こども園)とどの様に違うのでしょうか。実は、保育方針や育もうとしているこども像は変わりありません。
日本の幼稚園教育要領には、健康・人間関係・環境・言葉・表現と5つの柱「5領域」が設定されています。健康な心と体を育むこと、環境に好奇心・探究心をもつことなど、未就学児への取り組みが計画されているものですが、そのアプローチを自然というフィールドに移したのが「森のようちえん」です。
例えば、言葉や表現という分野では“こどもが美しいもの、優れたもの、心を動かす出来事と出会い、そこから得たものを他児や教師と共有する”という活動を大切にするよう書かれています。
野外保育では、目の前に広がる自然・季節・天候との出会い全てがこどもにとって驚きと感動に繋がるでしょう。計画や整備のされていないフィールドで、自分の力で見つけた生き物に心を動かす。自分にとっての「かっこいい!」「すてき!」をこども自身が発見する。こうした経験をより多く積んでほしいと、自然での保育活動を選ぶ保護者は年々増えています。
森のようちえんが大切にする保育4項目
自然体験を主軸とした野外保育は、日本においていまだ黎明期です。手法が確立されていないため、取り組みの内容が各団体や保育者の力量に任されているという特徴があります。2008年に発足した「森のようちえん全国ネットワーク連盟(現:NPO法人森のようちえんネットワーク連盟)」では以下の4項目を柱とした「大切にしたいこと」を提言しています。
自然はともだち
いっぱい遊ぶ
自然を感じる
自分で考える
就学前の教育についてさまざまな議論がされるなか、自然というシンプルな環境がこどもにとって最良と考える研究者や保護者は年々増えています。その魅力はなんと言っても「こどもがありのままに育つ」ということでしょう。太陽に向かってまっすぐに育つ草木のように、生まれ持った「その子らしさ」がいきいきと育つ環境です。森のようちえんは、現代にこそ求められる保育のかたちではないでしょうか。
森のようちえんは、現在のように普及するずっと以前から保護者が求めてきた保育のかたちです。今後、一般的な幼稚園や保育園と同じ入園先の1つとして、野外保育型の園を選ぶ家庭は増えていくことでしょう。
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森のようちえんを発展させる「ネットワーク」の発足
こどもに自然の中で育ってほしい
たくさんの実体験から社会性や生きる智恵を得てほしい
そんな思いで保育の場を求める親たちの声が、近年行政や各専門家による団体発足を後押ししています。ネットワークによって既存団体がつながり、そこから新たな保育者や保育手法が生まれ、野外保育のさらなる発展への1歩となっています。
こどもを自然の中へ!親の願いを原動力にしたムーブメント
国内には現在、200以上の森のようちえんがあります。しかし、園舎を持たないという特徴から、幼稚園・保育園として国や県・市町村から認可されないケースが少なくありません。
どんなに志高くこどもに向き合っている園でも、認可されていないというだけで2つの不安が生まれます。1つは親側の不安。大切な我が子の預け先として、行政の基準をクリアしていない園はハードルが高く感じられます。もう1つは、園側の不安。運営や園児募集、資金調達のすべてを親と主宰者でまかなうのは大きな負担です。
これらの不安を払拭すべく、国内では現在いくつかのネットワークが発足し、森のようちえんの認知度・信頼度を挙げようと日々活動しています。
知事有志による団体「日本創生のための将来世代応援知事同盟」
地方創生・子育て支援・女性若者支援に注力するこの団体は、12もの県が協力し2015年に立ち上がりました。目的は、豊かな自然を誇る自県への移住者を増やすこと。若い世代に安心の子育て環境をアピールする一環として、いち早く森のようちえんの活動に注目し支援しています。
同盟県の1つ長野県は、同盟発足と同年に「信州型自然保育認定制度」(愛称・信州やまほいく)をスタートさせました。2017年9月時点で登録された団体は111にのぼります。認定されると活動PRの場が圧倒的に増え、周辺の野外保育団体や小学校との連携を県のサポートの中で進めることもできます。何より、県からの“お墨付き”をホームページやパンフレットに明記できますので、保護者にとってこれほど大きな安心はありません。
野外保育団体をつなぐ「森のようちえんネットワーク」
野外保育を実践している主宰者と、団体立ち上げを模索している有志をつなぐネットワークもあります。2008年に発足した「森のようちえん全国ネットワーク連盟」は、2017年より「NPO法人森のようちえんネットワーク連盟」と名称を改め、全国に広がる野外保育団体向けの交流会や研修を積極的に行っています。年々新たな団体が加入し、2017年時点での登録団体は200を超えました。
団体発足前の2005年より年1回開催されている「森のようちえん全国交流フォーラム」では、未就学児と自然のより良い関わり方や取り組み、また新たな保育者発掘を模索するため、活発な意見交換がなされています。野外保育に魅力を感じつつも何から取り組めば良いか分からない、地域でのPRに苦心しているといった立ち上げ期の主宰者にとってはもちろん、成熟期を迎えた団体にとっても多くの学びが詰まった機会です。
愛知県では、「あいち森のようちえんネットワーク」が2016年に発足。当園「野外保育 とよた 森のたまご」も加盟しています。同じ地域・同じ志でこどもと向き合う団体同士の交流をはかっています。2017年夏には県内の森のようちえんを案内するマップを作成。野外保育のフィールドを探す保護者へ向けた、積極的な情報提供をスタートさせました。
欧米ではスタンダードとなりつつある「森のようちえん」ですが、国内でその認知度は決して高くありません。保護者と主宰者・こどもと自然をつなぐ架け橋である各ネットワークにより、日本らしい野外保育のかたちは今後洗練されていくことでしょう。